マルコ・ブランビヤ監督『エクセス・バゲッジ』

1997年作品。金持ち娘のエミリーが、自作自演の誘拐事件を起こし、あとは保護されるのを待つだけと車のトランクの中でじりじりしながら待機していたらば、間抜けな車泥棒ヴィンセント(デル・トロさん)がそれと知らずにその車を盗んでしまったことから始まるドタバタ騒動。デル・トロさんがなんともいえない抜けっぷりで、母性本能をくすぐるタイプの人間を好演している、わたしにとってはたまらない作品。

エミリーを演ずるアリシア・シルヴァーストンは、不満だらけという役の設定もあるんだろうけど常時への字口をしていて、なんだかデビル雅美さんにとても似ている。そのへの字口で窓の外を見るともなく見ていたら、誰でも「何か悩みでもあるの?」と聞きたくなる、そんな顔。で、実際レストランでウェイトレスがそんな質問を彼女に投げかけるシーンがあるのだけれど、その際のウェイトレスの早とちり(「ああ、おとこでしょ。おとこはいつでもおんなを泣かせるのよ」云々という慰め)を見ていて、人がとっさに他人をなだめるなり慰めるなりする際によくある、自分の物差しでもって、こうなんでしょう?的な同情を寄せて語りかける風景に重なって、リアルだわ……と感じた。
彼女を捜し出すべく、警察はだしの敏腕ぶりを見せるレイおじさんの役でクリストファー・ウォーケンも登場。その語られはしないけれど察せられる職業の雰囲気をプンプン漂わせていたのは演技力なのか、わたしに植え付けられた偏ったイメージによるものかわからなかったけれど、ここでも独特の味を出しまくっていた。この人も好きだ。
物語自体はひねりもなくて素直な感じ。車泥棒とお嬢さんの間に流れる、ほっこりした雰囲気が良かった。