T.H.クック『夏草の記憶』

先日読んだ『緋色の記憶』同様にこの物語でも、小さな町に住み、その小さな世界を嫌悪しそこから抜け出したいという願望を抱いていたかつての少年、今は年老いた男性の一人称で語られており、彼が自身の記憶を紐解きながらある事件の真相を明らかにしてゆく体で物語は進む。

夏草の記憶 (文春文庫)

夏草の記憶 (文春文庫)

主人公ベンにより語られる過去の出来事は、彼の中では未だ過去のモノになることなく、現在にいたるまで暗い陰を落とし続けているものだから、読んでいて重いことこの上ない。思春期の甘酸っぱい恋心も描かれたりするのだけれど、ベン君のネガティブ思考が救いようがなく、また私自分もそういう要素を持ち合わせていることを改めて突きつけられたりして、読めば読むほどいろんな意味で腹が立ってくるので参った。
腹立つわー。とか言いながらも一気読みしてしまったのはなぜかと言えば、ぼつぼつとした語り口で、真実につながる情報を小出ししてくるので、次が気になって中途で止められなかったから。お陰でここ数日睡眠不足。〈記憶三部作〉でもう一冊待機中なのでまだまだ眠れない模様。
それにしても、クックさんはやらしいぐらい巧い作家さんだなと思う。